キンネレテの湖 ガリラヤ地方 1978年
中東問題で一番難しい問題は「エルサレム問題」です。エルサレムは地理的に、ヨーロッパ、アジア、アフリカの中心に位置する都市で、アレキサンダー大王やヒトラーのような、多くの独裁者が、「世界政府を置くならば、エルサレム」と考えられた都市です。
それと共に、エルサレムは、「キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地」でもあります。
現在、エルサレムを支配しているイスラエル、ユダヤ人にとって、エルサレムは首都です。しかし、「日本人が東京を日本の首都である」というのと、「ユタや人にとってのエルサレムは全く別物である」ということを、我々日本人はまず理解しなければなりません。イスラエル、ユダヤ人にとっては、「エルサレムは、恋人以上、憧れの存在であって、自分の命を犠牲にしてでも、守らなければならない存在」なのです。
一方、名誉・誇りを重んじるイスラム教徒にとっても、「エルサレムは、略奪、虜にされている恋人以上の存在であり、名誉を重んじるイスラム教徒にとって、聖地が異教徒に支配されている」ということは、「許すことの出来ない出来事」なのです。
この問題は、時間と神様、「許すという概念があるアガペーの愛」のみが解決できる事柄であって、人が政治で解決できる問題ではありません。
なぜなら、「エルサレム問題は政治問題ではなく、宗教問題だからです。」
政治の世界では、「妥協」ということが存在しますが、宗教、特に、一神教の宗教では、「妥協」はあり得ないからです。
そのため、1970年代より、プロの政治家たちは、イスラエルとパレスチナ難民、ユダヤ人とイスラム教徒の人たちが、「エルサレム問題に目を向けない」、「エルサレム問題に注目することがないように」、配慮して来ました。
エルサレム問題にいったん火が付けば、両民族双方に、「多くの血」が流されるということを知っていたからです。
現在、この状況を大きく変えてしまう出来事が起こりました。アメリカのトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相がこの「禁」を破り、イスラエル寄りに「エルサレム問題」を動かしました。
トランプ大統領は「大統領選挙に於いて、ユダヤ人ロビー団体と穏健キリスト教右派の人々の支持を得る為」、イスラエルのネタニヤフ首相は、「自分の訴追されている汚職事件から、名誉挽回の為」に、「パンドラの箱」を開けてしまったのです。
しかし、アメリカ合衆国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ氏の目論みは自分たちの思うようには、行かなかったようです。
ユダヤ人ロビー団体も穏健派キリスト教右派の人たちも、イスラエル国民にしても、支持は半分程度しか得られませんでした。
どちらの国にも、心ある人々は、エルサレム問題を政治的に動かすことは愚行であって、将来、「イスラエル・イスラム教徒双方の多くの血が流されることに繋がる」と知っているからです。
歴史の真実を語っている、「旧約聖書」もエルサレム問題については、次のように人々に警告しています。
「その日、私(神)は、エルサレムをあらゆる民にとって、重い石とする。それを持ち上げようとする者は皆、深い傷を負う。地のあらゆる国々が集まり、エルサレムに立ち向かう。(ゼカリヤ書 12-3)」
トランプ大統領は、「エルサレム問題」では、支持してほしい人々を二分してしまうだけの結果に終わりました。
ところが、トランプ氏は、大統領選挙終盤に起死回生の満塁ホームランを得ることとなりました。共和党側近によって、「UAE、バーレーンのスンニー派のアラブ2国が、イスラエルとの国交を樹立する」という快挙を成し遂げたことを意味します。
中東に平和が到来するの第一歩は、「周りのイスラム諸国がイスラエルの生存権を認めること」です。
国交樹立によって、ユダヤ人ロビー団体も穏健キリスト教右派の人々も全員の支持が得られる、民主党に対して、「大逆転」の一手となりました。
これにより、共和党候補のトランプ氏は、大統領選に於いて、民主党候補のバイデン氏よりも、優位に立ちました。
しかし、トランプ氏の攻撃は9回表の攻撃です。バイデン氏には、9回の裏の攻撃が残されています。
民主党が共和党を超える外交プラン・ヴィジョンを示すことができるなら、コロナ禍で失政続きのトランプ氏より、優位に立つことは可能です。
しかし、バイデン氏が前大統領のオバマ氏のような外交をイメージしているのであれば、逆転の可能性は無いでしょう。
20世紀以降のアメリカ合衆国大統領の中で、第76代大統領、ジミー・カーター氏と並んで、前大統領オバマ氏は、1位、2位を争う「人格者」であることは間違いありません。
しかし、平和を願うが故に、かえって、「世界に混乱を招き、多くの血を流させる結果」をオバマ氏は招いたようです。
世界の人々が、家族と平穏無事な生活が送るには、「平和を唱える」だけでは実現しなかったのです。重要なのは、「世界の国々の力バランス」だったのです。
その為、国に警察が必要なように、自国のエゴ的な利益を追求する、手段を選ばない国々に対しては、「世界の警察」が必要だったのです。
「世界の警察」としてのアメリカの役割がいかに大切であったかは、歴史を見れば、一目瞭然です。
「平和を愛するあまり、中東でのアメリカの干渉」を嫌い、カーター氏は、イラン革命を容認し、アメリカの友人イランを失っただけでなく、現在のイスラエル対イランの「世界大戦になりかねない構図」を引き起こし、中東での多くの悲劇を生みました。
オバマ氏も、「平和を愛するあまり、中東でのアメリカの干渉」を嫌い、「イスラム国という怪物」を生み出してしまいました。
それによって、過去のどの時代よりも、より多くの悲劇と犠牲を生み出し、多くの「血」が流されたことは歴史が証明するところです。
バイデン氏が大統領選挙に勝ち抜くには、ユダヤ人ロビー団体と穏健キリスト教右派の人々の支持が不可欠です。
バイデン氏の9回裏の攻撃を、私達は注目しなければなりません。
次回は、「イスラエル・イランから見た、分かり易い中東問題の解説を試みるつもりです。